ことあれかしだった

ちいさい怪談や奇譚を細々と書いています

13.夢の後

こんばんは。

続きでございます。

 

★なんの続き?★

①夜の海

②昼の月

③暮の雨

④宵の花

⑤秋の風

⑥浜の声

⑦砂の詞

⑧弦の音

⑨人の街

⑩箱の中

⑪時の運

⑫砂の歌

⑬夢の後 ← イマココ!

 

友達は今夜も海へ向かいます。

明日の夜も海へ向かいます。

昨日の夜も海にいました。

 

夜の海へ行って何をするのでしょうか。

友達は何もしませんでした。

その辺の流木なんかに座って、ぼーっとしてました。

向こうの海から波が来て、近くに打ち寄せるんでしょうけれど、暗いので見えません。

音だけが聞こえます。

そこはただ暗くて、ざわざわした音が聞こえるばかりの場所でした。

 

こんな所に何があるんだろう。

こんな所に何があったんだろう。

 

夢を見ていたのかもしれない。

友達はそう思いました。

 

鳥が、きれいな鳥が、たまたまここまで飛んできて、少しの間ここにとまって、また飛び去ってしまった。

 

そんなイメージが思い浮かびました。

 

その姿を追いかけるよりも、飛び立つさまの美しさに見惚れる方を選んだ。

 

詩でも詠んでるつもりかと思いました。

 

残された海は、今も鳥の夢を見る。

 

……。

 

「うー。いかんいかん」

友達は頭を振って立ち上がりました。

「引きずり過ぎだ。俺」

こうして待っていれば、いつかまた彼女が不意に現れるんじゃないか。

「つーくん久しぶりー」と気楽な調子で、自分の肩を軽く叩いてくるんじゃないか。

そんな不用意な妄想の後にやって来るのは、いつもどうしようもない無力感でした。

 

――ずっと続けてほしい。続ければ、これからも上手くなってくから。

 

あの夜の言葉がリフレインします。

明日は歌おう。1人でも。

そう心に決めました。何度目の決心かは知りませんが。

 

「あら。フナホちゃんの連絡先とか知らんの」

おろちの問いかけに、

「フナホちゃんて誰」

と友達が答えます。

「お? フナホちゃんじゃなかったっけ? 電話なりLINEなりすりゃええやん。さみしいんなら」

「マユだよ。マユ。フナホちゃんてどっから出たの。知ってるけど。……。迷惑だろ。忙しいだろうし」

おろちはジト目で友達を眺めます。

「お前アホやろ」

「えええ。なんでよ」

友達は我々に助けを求めますが、みんなジト目で友達を見ています。

「実家いけよ実家。親御さんに勤め先の住所聞けよ」

「古風に手紙なんていいんじゃないかしら」

「遠距離とか童貞にはハードル高いだろうけど、試しにやってみたら?」

友達はうなだれて、

「キミたちに相談したのが間違いだった」

「無理しろよツムツム。今無理するんだよ。恋愛なんざ多少強引にいかなけりゃそのままフェードアウトぞ。好きなんだろ。好きなら好きな相手のためにお前が無理するんだよ。今更自分の気持なんか大事にしてんじゃねーよ。んなもん単なるオナニーだぞ。ほっといたら終わる。動いたら終わるか続くかの五分。賭けにしちゃよっぽどフェアだろ」

そう言ったのはふしのの親友、エスタークでした。

エスターク、……。ごめん。ムズい」

エスタークの激励は多少響いたようですが、友達はなおもウジウジしているのでした。

 

友達は今夜も夜の海にいます。

ギターを持ってきてはいましたが、ケースから出すでもなく背中に背負ったままです。

スマホを開いて、マユと表示された連絡先を見つめています。

友達はマユの本名すら知りませんでした。

 

連絡したい。

 

こわい。

 

声を聞きたい。

 

こわい。

 

会いたい。

 

こわい。

 

なにか文字を打とうとすると手汗がすごくてうまくいきません。

電話をかけようとすると指が震えてうまくいきません。

 

だって迷惑だろ。

 

自分みたいな暇人が、マユの時間に入り込んじゃいけない。

マユが落ち着いて、連絡してきてくれるのを待てばいい。

仮に連絡したとして、向こうが忙しくてそっけない返事とかされたら心が折れる

 

こわい。

 

友達はスマホを閉じて、ポケットにしまいました。

そうして深い溜め息をつきました。

 

自分は今、安心してる。

 

なぜ?

 

マユに連絡するのをやめたから。

 

なぜ?

 

こわいから。

 

なぜ?

 

なぜこわい?

 

さっきから言ってるじゃん。

迷惑かけたらいけないから。

 

自分なんかのために、マユに迷惑かけらんないだろ。

今は夢の後で、自分はこうしてきれいな夢を思い出しては浸っていればいい。

変なことしてきれいなものを汚したり、傷つけたりしちゃいけない。

マユに迷惑はかけられない。

 

迷惑。迷惑。……。

そうして友達の考えは変なベクトルを向いていきます。

 

迷惑と思われなくなればいいんだ。

そういうものになればいい。

 

その着想を得たとき、にわかに視界が広がって、景色の解像度が一気に増したように思えたそうです。

眼の前の浜の、砂の一粒一粒、埋もれた貝殻やガラス、波打ち際の泡、天体の光を反射する海面。目に映る全部。

友達は真剣でした。

いまだかつてないほど真剣でした。

 

では!

 

★次はコチラ★

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