こんばんは。
続きでございます。
★なんの続き?★
⑬夢の後 ← イマココ!
友達は今夜も海へ向かいます。
明日の夜も海へ向かいます。
昨日の夜も海にいました。
夜の海へ行って何をするのでしょうか。
友達は何もしませんでした。
その辺の流木なんかに座って、ぼーっとしてました。
向こうの海から波が来て、近くに打ち寄せるんでしょうけれど、暗いので見えません。
音だけが聞こえます。
そこはただ暗くて、ざわざわした音が聞こえるばかりの場所でした。
こんな所に何があるんだろう。
こんな所に何があったんだろう。
夢を見ていたのかもしれない。
友達はそう思いました。
鳥が、きれいな鳥が、たまたまここまで飛んできて、少しの間ここにとまって、また飛び去ってしまった。
そんなイメージが思い浮かびました。
その姿を追いかけるよりも、飛び立つさまの美しさに見惚れる方を選んだ。
詩でも詠んでるつもりかと思いました。
残された海は、今も鳥の夢を見る。
……。
「うー。いかんいかん」
友達は頭を振って立ち上がりました。
「引きずり過ぎだ。俺」
こうして待っていれば、いつかまた彼女が不意に現れるんじゃないか。
「つーくん久しぶりー」と気楽な調子で、自分の肩を軽く叩いてくるんじゃないか。
そんな不用意な妄想の後にやって来るのは、いつもどうしようもない無力感でした。
――ずっと続けてほしい。続ければ、これからも上手くなってくから。
あの夜の言葉がリフレインします。
明日は歌おう。1人でも。
そう心に決めました。何度目の決心かは知りませんが。
「あら。フナホちゃんの連絡先とか知らんの」
おろちの問いかけに、
「フナホちゃんて誰」
と友達が答えます。
「お? フナホちゃんじゃなかったっけ? 電話なりLINEなりすりゃええやん。さみしいんなら」
「マユだよ。マユ。フナホちゃんてどっから出たの。知ってるけど。……。迷惑だろ。忙しいだろうし」
おろちはジト目で友達を眺めます。
「お前アホやろ」
「えええ。なんでよ」
友達は我々に助けを求めますが、みんなジト目で友達を見ています。
「実家いけよ実家。親御さんに勤め先の住所聞けよ」
「古風に手紙なんていいんじゃないかしら」
「遠距離とか童貞にはハードル高いだろうけど、試しにやってみたら?」
友達はうなだれて、
「キミたちに相談したのが間違いだった」
「無理しろよツムツム。今無理するんだよ。恋愛なんざ多少強引にいかなけりゃそのままフェードアウトぞ。好きなんだろ。好きなら好きな相手のためにお前が無理するんだよ。今更自分の気持なんか大事にしてんじゃねーよ。んなもん単なるオナニーだぞ。ほっといたら終わる。動いたら終わるか続くかの五分。賭けにしちゃよっぽどフェアだろ」
そう言ったのはふしのの親友、エスタークでした。
「エスターク、……。ごめん。ムズい」
エスタークの激励は多少響いたようですが、友達はなおもウジウジしているのでした。
友達は今夜も夜の海にいます。
ギターを持ってきてはいましたが、ケースから出すでもなく背中に背負ったままです。
スマホを開いて、マユと表示された連絡先を見つめています。
友達はマユの本名すら知りませんでした。
連絡したい。
こわい。
声を聞きたい。
こわい。
会いたい。
こわい。
なにか文字を打とうとすると手汗がすごくてうまくいきません。
電話をかけようとすると指が震えてうまくいきません。
だって迷惑だろ。
自分みたいな暇人が、マユの時間に入り込んじゃいけない。
マユが落ち着いて、連絡してきてくれるのを待てばいい。
仮に連絡したとして、向こうが忙しくてそっけない返事とかされたら心が折れる。
こわい。
友達はスマホを閉じて、ポケットにしまいました。
そうして深い溜め息をつきました。
自分は今、安心してる。
なぜ?
マユに連絡するのをやめたから。
なぜ?
こわいから。
なぜ?
なぜこわい?
さっきから言ってるじゃん。
迷惑かけたらいけないから。
自分なんかのために、マユに迷惑かけらんないだろ。
今は夢の後で、自分はこうしてきれいな夢を思い出しては浸っていればいい。
変なことしてきれいなものを汚したり、傷つけたりしちゃいけない。
マユに迷惑はかけられない。
迷惑。迷惑。……。
そうして友達の考えは変なベクトルを向いていきます。
迷惑と思われなくなればいいんだ。
そういうものになればいい。
その着想を得たとき、にわかに視界が広がって、景色の解像度が一気に増したように思えたそうです。
眼の前の浜の、砂の一粒一粒、埋もれた貝殻やガラス、波打ち際の泡、天体の光を反射する海面。目に映る全部。
友達は真剣でした。
いまだかつてないほど真剣でした。
では!
★次はコチラ★