ことあれかしだった

ちいさい怪談や奇譚を細々と書いています

変な話9

こんな話を聞きました。

 

富海さんは霊能力者です。

霊障に悩まされている方の手助けをすることを生業としています。

昔だと宜保愛子さんとか織田無道さんとか、有名な霊能力者っていらっしゃいましたよね。

今は時代が違うこともあってか、あんまり霊能力者ってメディアとかには出なくなりました。

「力があって、自信があるんなら営業がてらテレビとかに売り込んだらいいんじゃないです?」

と聞いたときの話です。

 

「コールドリーディングを極めたら、霊能者になれる」

富海さんはポテチをつまみながら言いました。

「それが真実であれ、思い込みであれ、その人が幽霊に悩まされていて、助けを求めている。そうした時、いちばん簡単なのはその人の世界観に入り込むこと」

以前のクライアントに、夜な夜な女の霊に首を絞められるのが辛いという方がいたそうです。

「そんな時にまず聞くのは、イケメンだったら”あなた昔ひどい別れ方をした女性がいますね?”で、そうでなければ”今住んでる部屋って家賃が相場より低いでしょう”になる」

これで事由の95%は網羅できるそうです。

「ひどい別れ方ってその人の主観じゃない。”あの時のことかな”って思わせたらおしまい。家賃だって、普通1円でも安いところに住みたいでしょ。安いところを選んで決めたのが重要で、それがクライアントの負い目になるのよ」

どっちかに食いついたら話は早いそうです。

「生霊なり地縛霊なり、お好きな方をどうぞ。ってね。本人が納得する理由を見つけてあげる。原因を作ってあげる。それがアタシらの仕事」

もっともらしい原因を作ったら、もっともらしい方法で解決すればいいわけです。

「霊能力者なんてものに相談に来てる時点で、クライアントが求めてる答えなんて一つしかないのよ。すなわち、こういう原因で霊に取り憑かれています。こうすれば除霊できます」

ちょろいもんよと嘯くので、

「ユウレイっていないんです?」

ときいてみると、

「そう。そのクライアントね、どっちでもなかったのよ。女っ気もなく、事故物件に住んでるわけでもない。でも夜な夜な女の霊が出て首を絞められる。じゃあ別のところに原因を求めなければいけない。その人が納得する理由。アンタ何だと思う?」

「うーん。先祖のやらかしで一族郎党全部呪われてて、ハタチになったら女の霊に取り憑かれて死ぬまで面倒見ないといけない。んでそのことを伝える前に爺ちゃんが死んだ」

「妄想力〜♡」と言って富海さんはわたしのほっぺをつつきました。そう。富海さんはオネエです。

「情報収集しなきゃいけない。怪談のパターンって決まってるじゃない。だからパターンに違和感なくはめられるシチュエーションを作る作業が発生する」

それは近しいものの死ですとか、先祖伝来の因縁、生まれ故郷の風習、直近のショッキングな出来事、果てはペットの近況まで、雑談の中で探っていくそうです。

「負い目につけ込むのがアタシらの仕事。だから清廉潔白って思い込んでる人は難しいのよね。そんな人はウチに相談なんか来ないけど」

しかし、その人には何もなかったそうです。

富海さんがつけ込むような負い目は、何一つ。

「そしたらもう、現地調査しかないじゃない。あなたと一夜を共にします。って。うふふ」

その夜、富海さんはクライアントが寝付いたのを確認すると、横に座ってスマホをいじっていたそうです。

1時間、2時間が経った頃でしょうか。

眠っているクライアントがうなされ始めました。

「ああ、この人が言っていたことは本当だったんだなって、正直な気持ちをアタシにぶつけてきてくれたんだって思うと、愛おしくって」

クライアントは自分で自分の首を締めていたそうです。

眠ったままで、首を絞める力と引き剥がそうとすると力とがせめぎ合い、その腕は汗まみれで血管が浮いています。

ふと見ると、クライアントのお腹の辺りがこんもりしています。

女の頭がお腹から出ていて、長い髪に隠されていますが、口元は笑っているようです。

富海さんはそれを確認すると喝を入れました。

とたんに女の顔は消え去って、クライアントが目を覚ましました。

「……。今、見えました。あの女が、光に包まれて消えていくのが」

「除霊は成功しました。もうあなたが霊障に悩まされることはないでしょう」

 

「え。それガチですか?」

わたしが聞くと、

「ガチよ。少なくとも、アタシとあの人の間ではね。でもそれでいいのよ。解決したんだから。自分の身に起こってる訳わかんないことを聞いてくれる。解決しようと動いてくれる。理由を見つけてくれる。解決してくれる。それでおしまいなのよ。アタシはその人の見ているものを見て、聞いていることを聞く。共感力って言ったらいいのかしら。クライアントの思い通りに事を運ぶのがアタシらの仕事。多分、彼があんなことをしてた理由は他にあったんでしょうね。日頃のストレスとか、もっと根深い何かとか。でもそれを霊のせいにして、アタシがその霊を取り除いて、それで解決するなら結果オーライでしょ。だって彼はそれきり寝てる間に変な女に首絞められることなんてなくなったんだから」

「えー。じゃあわたしの何か悪霊払ってわたしが金持ちになるようにしてくださいよ」

「雑ねーアンタ」

霊能力者って心理カウンセラーのひとつの形態なのかなって思うのでした。

 

では!