ことあれかしだった

ちいさい怪談や奇譚を細々と書いています

2.昼の月

こんばんは。

明日は早起きです。

早く寝るぞー!

 

じゃあ続きを書きましょうか。

 

★なんの続き?★

①夜の海

②昼の月 ← イマココ!

 

音痴だった友達がいます。

友達は音痴だったのですが、歌うま女子に歌い方を教えてもらってからはそれなりに上手になりました。

あっちからカラオケ行こうとか誘ってくるので笑ってやりに行ったところ、コメントに困るレベルになっていたのでした。

んで、歌うまの話を聞いて、夜の海の話を聞いて、結局連絡先交換したとか言うので、

「美人局だぞやめとけ」

「やめとけ美人局だぞ」

「てか夜の海で歌ってるとかキモいんやけど」

と親切心から他の友達も口々に彼を諭そうとするのですが聞きません。

過熱した思いは、遂に危険な領域へと突入していきます。

 

昼間に会ってみようと言ったのは友達の方からでした。

夜な夜な海で歌の練習をしていたのですが、そういえば明るいところで彼女に会ったことがないなと、なんとなくそう思ったからでした。

向こうからも、うんいいよと軽い返事が返ってきたのを見たところで、友達はモーレツに緊張してきたそうです。

歌うま女子の名前はマユといったそうです。

ここ最近はマユと頻繁に会うけれど、いつも真っ暗な中にぼんやりと浮かんでいる姿しか見ませんから、どんな顔で、どんなカッコをしているのか思い出そうとしても、いまいちおぼろげです。

それはこっちも同じことなんだろうなと思うと、明るいところで会ったときに好みじゃないとか、ダサいとか思われたらどうしようと、友達はだんだん不安になってくるのでした。

しかし日程と集合場所まで決まってしまい、いよいよそんな情けないことが言えなくなってきました。

「女の子ウケがいいカッコってどんなだろ」

友達は意を決して我々に相談を持ちかけてきました。

「白タンクジーパンビーサン

「細マッチョ」

「やっぱ男は赤フンプリケツだわさ」

温かいアドバイスが次々に挙げられていきます。

「もー、もっとちゃんと教えてってば」

友達はそんな親切心をむげにするかのようにわめきます。

「真実を教えてやる。好きなら服なんざ何でもいいんだよ。嫌いなやつがオシャレしたってどうせ似合わねえやらサイズ合ってねえやらで難癖つけられるんだから。てきとうでいいんだよ。着る服ないならゾゾタウン開いておすすめで出てきたやつ上から順番に買ってけ」

そう言ったのはふしのの親友、ジュテームでした。

「身もふたもないけど、サンキュージュテーム!」

友達は自信をもった様子で、我々の元を駆け出して行きました。

「骨は拾ってやる」

ジュテームの眼差しは優しく、わたしの胸を強く打ちました。

 

夏らしい、暑い日でした。

日ざしは白すぎるほどに白く、うるさいのは蝉すぎるほどに蝉の声。

待ち合わせ場所の駅前の広場へ辿り着くまでに、友達は汗でびしょびしょになってしまっいました。

友達の足は重かったそうです。

勢いで会おうとか言っちゃったけど、明るいところで見られてブサイクとかダサいとか思われたらどうしよう、汗が臭かったらどうしよう、……。マユが本当にツツモタセだったらどうしよう、明るいところで見たら微妙だったらどうしよう、思ってたのと全然違ってたらどうしよう。

ピュア男の分際でいっちょ前に選り好みをするつもりでいるようです。

30分前についたので、近くのコンビニで涼もうと歩きだしたところで「つーくん」と後ろから声をかけられました。

友だちの名前はツムグといったので、つーくんは割りとポピュラーなあだ名です。他にはツムツムとか。

振り返るとカワイイ女の子が立っていました。

友達は目を白黒させました。

さっきチラッと見かけたけれど、この人がマユだと思っていなかったからです。

友達の証言ではいまいち要領を得ませんでしたが、今風のカッコをして今風のメイクをした、今風のカワイイ子だったようです。

マユは友達の方へ近づいてくると、

「汗」

と言ってカバンからハンカチを出して友達の額を拭いました。

「あ、あの」

友達はどもりながら、

「それ、ごめん。洗濯して返す」

マユは声を出して笑ったそうです。

「なんでよ、もー。つーくん紳士ー」

その町では月並みなデートコース、駅ビルだとか、町角のおいしいスイーツ屋さん、アーケード街の散策なんかを、特にプランを立てたりはしていなかったそうですが、マユと楽しく回ったそうです。

楽しかったと友達は言いました。

マユは楽しいんだろうかと常に不安でしたが、見た目を見る限りは、マユも楽しそうにしていたそうです。

「見て」

「ん?」

「月」

指差す方を見ると、夏の青い空に薄っすらと月が浮かんでいました。

「昼間の月ってさ、クラゲみたいだよね」

マユは歌のうまそうな、美しい声で言いました。

友達は完全にマユに惚れていました。

一挙手一投足すべてが可愛らしく思えましたし、たまに出る変な言動も逆に個性としてプラスに受け入れられたのでした。

でも、決してマユを自分だけのものにしたいだとか、付き合ったりナントカといったことは思いませんでした。

関わっていられるだけで幸せでしたし、会話するだけで幸せ。

いつも夜の海で歌の練習に付き合ってもらえるのも、奇跡のような幸せ感だったそうです。キモい。

こうして昼間に自分のために時間を使ってくれていることも、自分のことを「つーくん」と呼んでくれることも、ありえないくらい幸せで、嬉しい。

この出会いが、マユにとって何かのプラスになればいいんだけれどと思います。

自分なんかに関わった時間が無駄にならなければいいんだけれど。

 

では!

 

★次はコチラ★

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