ことあれかしだった

ちいさい怪談や奇譚を細々と書いています

5.秋の風

こんばんは。

続き書きましょうか。

 

★なんの続き?★

①夜の海

②昼の月

③暮の雨

④宵の花

⑤秋の風 ← イマココ!

 

夏が終わりかけていました。

暑さもだんだん和らいでいき、なんとなく過ごしやすくなった気がします。

友達は友人のツテでコスパのいいバイトを紹介してもらい、お財布が暖かくなっていました。

これは普段お世話になってる恩師になにか献上せねばなるまいと、我々に相談を持ちかけてきたのでした。

「小豆島の醤油」

五島うどん

「ま、マルセイバターサンド」

「島らっきょう久々に食べたいわね」

「お土産ばっかじゃん」

しかも年寄くせえと言われたのは聞き捨てなりませんでした。

「バカヤロウお前、そんなん記念でもなんでもないのに重いもん渡してどうすんだよ。悪いこと言わんから消費できるもんにしとけ。形が残って趣味が合わんかったらどうする。ただの産廃だろうがそんなもん。消費できる、かつ高いもんがいいんだよ。よく分からんなら高級お菓子とかでググって一番上に出てきたやつ買っとけ」

そう言ったのはふしのの親友、テルミンでした。

「身もふたもないけど、サンキューテルミン!」

友達は晴れ晴れとした表情で我々の元を後にしました。

「その金でメシ誘えよ……。意味分からん」

それをあえて言わないのも優しさ、本人が自分で気づくべきなのです。

 

夜の海は少し肌寒く、ちょっともう半袖はキツイかなといった風情です。

友達はよく分からないフランスのメーカーの、よく分からないオシャレなお菓子を携えて浜に立っています。

焼き菓子なので、少々タイミングが合わなくても大丈夫と、その辺は抜かりないつもりでいます。

流木に座って、海を眺めます。

月のない夜でした。

月のあるなしってかなり大事で、確かあれなんですよね、地上に影を作る天体って、太陽と、月と、金星? 火星? と、あと何でしたっけ、天の川でしたっけ。

闇に目が慣れるに任せて、見えないものは見えない、見えるものは見える、そんな諦めにも似た心持ちで友達はぼーっとしてます。

 

この海にまつわる怪談がありました。

夜の浜にいると、変な女が来るそうです。

どこが変なのかというと、頭が異様に大きい。

周りに明かりもないので、夜の海でゴソゴソしてると、気がついたら近くにてるてる坊主みたいなシルエットが佇んでるそうです。

そこから先は噂によって内容が違ってて、顔を見たら死ぬ/気が狂うですとか、耳許で延々死ね死ね言われるですとか、取り憑かれて徐々に衰弱していくですとか、そんな感じ。

その中でわたしの興味を引いたのは、女は貝殻が好きで、渡すと海の底に連れて行かれる。でした。

意味分からなくないですか。

贈り物の対価が死とかいう不条理な設定が、どこからどう付与されたのか。

近所の小学生が考えたとかであれば別にいいのですが、なんか不気味でした。

でもそんな噂が人払いにもなって、おばけとか別に信じてない友達には却って都合がよかったんだろうなと思います。

 

「つーくん」

背後から声がしました。

「こんばんは」

いつ聞いても美しい声でした。

「こんばんは」

友達は振り返らずに答えました。さっき言った噂とかどうでもよくて、ただ緊張してたからです。

「たそがれてたの?」

「そんな感じ」

「涼しくなってきたもんね」

いい匂いが隣に座りました。

上着ないと寒いくらい」

「うん。半袖で来てミスった」

ふふ、と笑う声がしました。

「早く学校始まってほしー。夏休みのほうがキツイもん」

「バイトとかしてるんだっけ?」

「無理無理。そんな時間ないよー」

とりとめのない会話を交わしました。

会話のたびにマユの新しい情報が得られていいなと思う反面、自分はマユのことをまだ全然知らないんだなと凹みます。

「そうだ」

友達はわざとらしく言いました。

「これ。ボーナス入ったからさ、普段お世話になってるし」

よく分からないフランスのメーカーの、よく分からないオシャレなお菓子の紙袋を差し出しました。

「え」

突然だったので、マユはびっくりしてる様子です。

「どしたのいきなり」

「迷惑だったら、持って帰って自分で食べるけど」

「いる。いる、貰う」

マユは見たことのないくらい素早い動作で紙袋を受け取りました。

「わーなにこれ。なにやらオシャレ」

「俺もなんかよく分からんけど、フランス産らしい」

「フランス!」

マユは紙袋を抱きしめると、

「社会人ってすごい。社会人なってもいいかなって思ってきた」

「もう4回だっけ。就活は?」

「推薦で行ける感じかな。研究職とかで」

行き先の企業の名前を聞くと、誰でも知っているような大企業でした。

「すごいじゃん。俺なんかよりよっぽど稼げるよ」

「んー。……」

マユはしばらく黙っていましたが、やがて、

「ねえねえ、つーくん。今度お昼にここ来ようよ。また空いてる日教えるからさ」

「ん。いいよ」

今の会話と何の因果関係があるかは分かりませんでしたが、昼間にに来るのも悪くないかもと、友達が気楽に考えるのでした。

 

では!

 

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