こんな話を聞きました。
ある人が、、名前は、仮にメルキオールさんとしましょう。
メルキオールさんには友達がいて、バルタザールという名前でした。
二人は大学の頃からの友達で、両人ともサラリーマンとして元気に働いていたそうです。
ある日、バルタザールさんが「メルキオールよ、我が家へ遊びに来い」と言います。
バルタザールさんは妻子持ち、メルキオールさんは独身貴族でした。
「いいの? 昔飲みすぎて奥さんにめちゃくちゃ怒られた覚えがあるんだけども」
「大丈夫。もう大丈夫。嫁さんもだいぶ丸くなったから」
「じゃあお邪魔しようかな」
夏が終わり、夜は少し肌寒いかなといったぐらいの季節だったそうです。
バルタザールさんの家の前まで来たので、メルキオールさんはインターフォンを鳴らしました。
「はぁい」といってパタパタ音が聞こえます。
玄関の扉が開いて、ちいさい女の子が顔を出しました。
「こんばんは!」
見たことのない子でした。
「こんばんは」と返事をしながら、メルキオールさんは「こんな子だったっけ。まーでも子供の成長なんてすぐだしなあ」と女の子の後について家に入りました。
中に入ると、「いらっしゃい。ご無沙汰してます」と言って奥さんが顔を出しました。
「どもども。ご無沙汰してます」
手土産を渡しながら、メルキオールさんは「奥さんってこんな顔だったっけ?」と思います。
こちらは流石に記憶に残っていて、結婚式でスピーチまでしたのですから、メルキオールさんの中にもきちんとバルタザールさんの細君像があります。
まーでも、女から母親になったってことだろとあまり気に留めずに客間へ進みます。
なんか間取り違う気がするなと思いますが、それは自分の記憶違いでしょう。
ここまでご覧になられた方はお気づきでしょうけれども、メルキオールさんはだいぶ抜けてます。
昨日の夕飯など決して思い出せませんし、自分の歳も胡乱です。
そんなメルキオールさんが「はて」と思うほどですから、我々にとってはガッツリなにかが変わっているということです。
客間に入るとバルタザールさんはもう毒見が進んでいて、挨拶もそこそこに、2人は飲み会を始めました。
たちまち酔っ払って、しょーもない話で盛り上がっています。
「いやー。宅飲みとか久々でいいわ」
メルキオールさんは赤い顔でニコニコしています。
「だな」
バルタザールさんもニコニコしています。
「つうか、バルタザールさ、家建て替えた?」
「は? 35年ローンだよ」
「なんか昔来たときは、畳じゃなくてソファで飲んでた覚えがあったからさ」
「そりゃお前、部屋が違うだけだよ」
「そかそか」
グラスが空いたので、ビールを注ぎながらおっとっととします。
「バルタザールさ」
「なんだい」
「嫁さん変わった?」
こたえがないので、メルキオールさんはバルタザールさんの顔を見ました。
知らないおじさんが真顔でこちらを見ていたそうです。
「あんた誰」
「バルタザールだよ」
知らないおじさんはヘラヘラと笑いました。
「そかそか」
メルキオールさんは酔っ払いなので、すべてを受け入れる所存です。
そうして夜が更けるまで2人は飲み会を続けたそうです。
普通に楽しかったそうです。
「じゃ、ボチボチ帰るわ」
「なんだよ。泊まってけよ」
「いや、いや」
バルタザールさんは執拗にメルキオールさんを引き留めました。
しまいには奥さんや子供も出てきて、メルキオールさんにまとわりつくように帰宅の妨害をします。
「泊まっていきましょう。外は危ないですから」
「おじさん。もっと遊んでよー」
「メルキオール。なんだよ、お前そんなに友達の家に泊まるのが嫌なのかよ」
「ほら。お布団も敷いてますし、お風呂もお上がり」
あらあらあらと思いながらも、メルキオールさんは言いました。
「だって、犬の散歩あるし」
バルタザールさん以下、家族一同はしんとなって、目をまんまるにして畳に座り込みました。
「なら、しゃーない」
そうしてメルキオールさんは帰路につき、明くる日の朝は二日酔いの中無事に犬の散歩を遂行したそうです。
バルタザールさんとはそれ以来連絡を取ってなかったみたいです。
なんだか気になったので昼間、家まで行ってみたところ、草ぼうぼうの空き地でした。
その辺の人に、「ここにあった家ってどうなったんですか」と聞いてみたところ、
「ここは昔からずっと空き地だよ」
で、そんな話をメルキオールさんから聞かされて、
「こいつよ。ほら」
とLINEの連絡先を見せてもらいました。
「えー。ちょい今LINEしてよ」
「今? いいけど」
メルキオールさんは、「生きてるか?」とバルタザールさんにLINEを送りました。
即既読がついて、間髪入れずに「縺セ縺」縺ヲ繧九h縲ゅ★縺」縺ィ」と返事がありました。
「え」
「え。こわ」
メルキオールさんは流れるようにバルタザールさんをブロックし、連絡先を削除しました。
「え。いいの」
「いいよ別に。こいつの顔も思い出せんし、よく考えたら特に思い出もない」
こわ。と思いましたが、おっさん同士の友情などわたしにとってはどうでもいいことです。
では!