ことあれかしだった

ちいさい怪談や奇譚を細々と書いています

蒐集

こんばんは。

久々にドンキに行ったら目がチカチカしました。

今もチカチカしてます。

 

怪談を蒐集する一番効率的な方法って何だと思いますか。

本を漁ったり、ネットを漁ったり、そんなことを繰り返してると、そのうちなんかどっかで聞いたことあるなって話ばかりになってきます。

そんなときはフィールドワークへ出かけましょう!

怪談とか無縁じゃない? という人から面白い話が聞けたりします。

それこそ親兄弟、親戚とか、意外とみんな怪談持ってます。

 

親戚のおじさんが趣味で損保の調査員をやってます。

地震とかのあとに家を見に行って、保険の対象になるかどうかをチェックしたりで、ここヒビ入ってるんで〇〇円ぐらい出ると思いますよー、とか。

結構前に東日本のどこかでそこそこ大きい地震があった後、おじさんはある家を見に行ったそうです。

立派な日本家屋で、奥さんがひとりで暮らしていました。

なんでも家族はみんないなくなってしまって、しょうがないからひとりで住んでるけど女ひとりじゃやっぱり手に余ると、そんな話をされていたそうです。

あっちこっちを調査して回って、ここは保険で行けるかな、ここはちょっとキツイかな、といった感じで見ていきます。

「それでね、主人はこの家で亡くなったんです」

奥さんはおじさんの後をついてまわりながら、そんな話を続けます。

「息子が亡くなってから、4~5年くらいかしら。あの子は事故だったけれど、主人は自殺でした」

「そうでしたか」

気の毒にと思いながら、地震の影響がありそうな所を確認します。

「古い家でしょう。何回かリフォームしたんですけど、きれいになったはずなのに、なんだか家の中は暗くなっていくような気がして」

確かにリフォームされてるなとおじさんは思います。

ここは畳をはがしてフローリングにしたんだな、洗面所はごっそり入れ替えたんだな、ここは元は土間だったんだろうな。

ウィンチェスターハウスって知ってますか。

アメリカにある、おばけが出るので怖くなって増築しまくったというお屋敷です。

あと伊集院光さんの有名な赤いクレヨンとか。

ああいうのって元々なにかこわいものがいて、それを閉じ込めたり隠したりするためにリフォームしてるんですが、別にこの家はそんなことはないでしょう。

でもおじさんはなぜかその時、ふと頭に上で言ったような怪談が思い浮かんだそうです。

お子さんやご主人が亡くなって、その因縁を隠すためにリフォームした。ならまだ分かるんです。

でも奥さんの話を信じるなら、どう考えてもリフォームするたびにご家族に不幸が起こってます。

「けどやっぱりリフォームすると快適になるわ。今度も地震で壊れたところがあったらリフォームしなくちゃ」

奥さんはニコニコしてます。

おじさんは最後の部屋を見るために、ふすまを開きました。

開けた先は四畳半の和室で、床の間に立派な掛け軸がかかっているきれいな部屋でした。

暗い。

おじさんは思いました。

真っ昼間です。

むこうの障子からはおひさまの光がさしていて、眩しいくらいであるべきなのに、奥さんの言う通りなんだか暗い。

陰翳礼讃っていう本があるんですが、すごい乱暴に言うと「光あるところに影がある」の究極の美しさについて語ってる本です。超名著なのでまだの方はぜひ。

ああいう意図した暗さ、芸術的な暗さじゃないとおじさんは思いました。

むやみに暗い。

不思議でした。

あの床の間のすみっこなんか見えないぐらい暗い。

「主人はここで死んだんですよ」

後ろから奥さんの声がしました。

「首をつって。私が見つけたときにはもう事切れておりましたのよ」

おじさんは天井を見上げました。

和室って天井が板張りなのですが、その部屋は板を押さえるための棒が掛け軸とかをかける床の間に向かって伸びています。

おじさんは足もとを見ました。

和室ってもちろん畳なのですが、その部屋は畳の敷き方が「卍」の字を書くように渦状になっています。

「この部屋もリフォームしたんですか?」

「ええ。きれいでしょう」

おじさんはそれ以上何も言わなかったそうです。

もうこの奥さんと話したくない。

その和室のつくりは、武士が切腹をするときの部屋のつくりだったそうです。

 

わたし:ん? 奥さんがどんどん縁起悪い家にしてったってこと?

おじさん:わからん。わからんから余計に気色悪かった。その奥さんがやったにしろ、どっかの工務店がやったにしろ、他の誰かの指図だったにしろ。知りたくもないが、誰がやったにしろ、舐めてるだろ。あんな立派な家を適当なリフォームしやがって。ロクな死に方せんぞ。

 

おじさんはベロベロに酔った口で悪態をつきました。

「事実は小説よりも奇なり」という言葉がありますが、まったくその通りだと思います。

わたしの今の上司なんかは、

「こんだけ生きてるとね、何が起こっても大体経験済みだから、けっこう余裕で対処できるよ」

と言います。

そういう人だったら怪談のレパートリーも多くていいんだろうな。

 

では!