ことあれかしだった

ちいさい怪談や奇譚を細々と書いています

半ドン

こんばんは。

ついにやってきますね、GWが。

 

今年のGWの予定は特になしです。

むしろ中日の1、2日に有給を取らず、あえて出勤してみます。

休みそのものよりも、その前の日のワクワク感が好きです。

金曜日なんて最高ですし、小学生の頃の土曜の半ドン(歳バレちゃうな。。。)とか。

AMは学校で友達と遊びの約束をして、お昼前に家に帰ってお蕎麦食べて、PMに集合というスケジュール感がとても好きで、いつもより一日が随分長く感じられたものでした。

その日は近所の草むらに埋もれた溜池に行こうと言う話になって、友達数人と連れ立って向かいました。

行って何をするつもりだったのかは覚えていませんが、どうせしょーもない悪さをしに行くつもりだったのでしょう。

溜池に着くと、各々好き勝手にそこらを荒らしたり、そばに立っている古い小屋に侵入したりしてくつろいでいました。

わたしは溜池の際まで行って、中をずっと覗いていました。

不自然なほど青々とした草に囲まれた、真っ黒い水。

どれくらい深いんだろうと思っていると、池の底から薄っすらと赤いものが浮かんできました。

ぼんやりと眺めているうちに段々と姿がはっきりしてきて、それが赤い鯉だということが分かりました。

鯉は水面までやってくると空に向かって口をぱくぱくして、そうしてまた真っ黒い水の深いところへ潜っていき、やがて見えなくなりました。

わたしはそれで胸が一杯になって、ほかの悪んぼに見つかったら洗いにされてしまうと思い、鯉のことはひとり胸に仕舞っておいたのでした。

それから気が向いた折に溜池へ行って、鯉が現れるまで池を覗くのが日課になりました。

小学校を卒業して、中学生になって、中学校を卒業して、高校生になって。

大学の夏休み、帰省したついでにあの溜池を覗きに行くと、やっぱりしばらくしたらあの鯉が浮かんできて口をぱくぱくします。

そのへんのバッタとかを投げ入れてみるのですが、鯉は無反応で、ただ口をぱくぱくして、うつろな瞳は何を見ているのか分かりません。

鯉って長生きなんだなーと思いながら、わたしは何もない真っ黒の水面をいつまでも眺めているのでした。

大学を卒業して、社会人になって、一旦ドロップアウトして、また社会に戻って。

鯉は相変わらず、真っ黒い水から空に向かって口をぱくぱくします。

きみは何を食べているの?

わたしは鯉に話しかけますが、魚が答えるわけがありません。

きみはどうしてここにいるの?

その口の中は池の水と同じような真っ黒で、ちいさいあぶくが出たり入ったり。

きみはこれからどこに行くの?

鯉が体をねじると、赤い鱗の連なりはお日様の光を順番に照り返してぴらぴらと光りました。

しかしすぐさま真っ黒の水に紛れて、最後に尾ひれが水底へ消えると後には細い波紋が残るばかりでした。

 

では!