ことあれかしだった

ちいさい怪談や奇譚を細々と書いています

憧憬

真っ白い廃墟のような所でした。

緑の深い森に囲まれていて、子供のわたしは入り口へ続く白い石の階段に座って、手をついたなりで掌に触れる石の感触を確かめるように、階段の表面を撫でていました。

空の色を見ると、高く青黒い所から森の際にかけて色あせていくようなグラデーションになっていて、きれぎれの雲のそばでは星が小さく硬い光を瞬かせていました。

ぼちぼち行ってみようかなと思ったので、階段と同じような真っ白い石でできた建物に入りました。

中はやっぱり真っ白で、真っ白い壁、廊下、天井、それだけでした。

窓や扉のような開口部はあちこちにあるのですが、窓や扉が実際にはまっている訳ではなく、四角い穴がぽっかりと空いているばかりです。

わたしはてきとうに足を運ばせて、建物の中を行ったり来たりしました。

探検するような気持ちであちこち見て回り、とうとう一番奥だと思われるところまで来ました。

真っ直ぐな廊下が向こうまで続いていて、突き当りの脇に扉のような開口部が見えています。

あそこまで行って見てから帰ろうと思い、わたしは歩を進めます。

照明はないように思いますが、建物の中はずいぶん明るく、時折ふんわりとした風が吹いて来てわたしの顔を触って行きます。

窓のような開口部からは外の森が見えるので、そこから吹いて来るんだろうなと考えています。

そうしてわたしは突き当りまでやって来て、扉のような開口部を覗きました。

その先は小部屋になっていて、中にはベッドが一つ置いてあります。

ベッドの上で身を起こした母親が、知らない赤ちゃんを抱いています。

その奥には大きな窓のような開口部があって、一面の夜と大きな三日月が映っていました。

「月が」とわたしが言うと、

「いいのよ」と言って母親は笑いました。

 

わたしの一番古い記憶です。

歳を取るに連れて色々脚色が入ったっぽいですが、概ね上のような感じのはずです。

色々解釈はできそうな気がしますが、嫌だよファンタジーのままにしとくんよ。

 

では!