ことあれかしだった

ちいさい怪談や奇譚を細々と書いています

部長

こんばんは。

窓枠にカエルが二匹、向かい合って座ってます。

かわいい。

 

何度目かの糖質制限を始めてます。

米は別になんですけど、麺が食べれないのがキツイんですよね。

でも豆腐素麺ひさびさに食べたらめちゃおいしくて、技術の進歩を感じました。

 

高校の頃、吹奏楽部の部長と仲良しでよくつるんでました。

なんか色んな科が雑多になってた高校で、わたしは普通科でしたが部長は商業科で、授業なんかで関わる機会はなかったのですが、休み時間や放課後のちょっとした時間に廊下に座って話をしたり、雑誌を読んだり、勉強したり。

どこに住んでるのかも知りませんでしたし、ケータイの番号も知らない。情報と言えば名前ぐらいのものでしたが、それも本名は知りませんでした。

プライベートで遊んだこともなかったので、学校だけに生息している生き物と言った感じでした。向こうもそう思ってたんだと思いますが。

静かな夏休みでした。

蝉の声や部活の掛け声、吹奏楽のラッパの音なんかが遠くに聞こえるような静かな廊下で、部長とわたしは座っておしゃべりしてました。

首に薄いピンクのタオルをかけて、何かの金管楽器を抱えた部長が練習している姿をわたしは見たことがありませんでした。

でも何かのイベントで目にした彼女が演奏する姿はとても立派で、美しかった。あんまりにも眩しくて嫉妬したものでしたが、部長はなぜかわたしのことが羨ましいといつも言っていました。

「ふしのはさー、卒業したら大学行くの?」

「指定校取った。Fランやけど」

「どこ?」

「関西」

「遠くなるね」

家庭がだいぶ荒れてたので、当時のわたしはとにかく親元から離れたくて、親戚周りや教師なんかに根回しをしつつ、奨学金を取り付けて地元を離れる手はずを整えていました。

絶対にミスれないので推薦で行ける範囲にして、あとの生活の面倒はすべて自分で見る所存でした。

「部長は?」

「あたしは就職するよ普通に」

「ラッパ吹けるとこ?」

「ううん。普通に行けるとこ」

「ラッパ吹いたんがいいよ。うまいし」

「うまくないし。ふしのは大学に何しに行くの?」

「別に考えてないなー。とりあえず一人暮らししたい」

「そっか」

部長は金管楽器の縁に顎を乗せて、遠くを見るような顔をしていました。

「あたしも連れてってほしいなー」

「お。来たら」

「わはは」

思えばあの時、部長は何かの賭けに出ていたんだと思います。

「あたし分からんのよねー。中学の頃にはさ、高校は商業科に行って簿記取って、卒業したら地元のそこそこ大きい会社に入って経理でもやって、いいひとに出会って結婚して子供産んで、そんであたしの母さんとか婆ちゃんみたいに、普通に年取ってくんだって思ってて」

わたしにとっては結構衝撃的な告白でした。同い年の子ってこんなに人生設計してるんだと思うと顔がひきつるような感覚でした。

「ふしのってさー、かなり行き当たりばったりやん。こわくないのかなって。どうしようもなくなったら、どうしようって思ってるの? 普通じゃないよ。何も考えないで大学行くの? せめてこっちの大学じゃだめなの? そしたら、どうしようもなくなっても助けてくれる人いるよ」

気がつくと部長はわたしを見つめていました。とても真剣な眼差しでした。

「そうかもね」

学校を出ても友達でいたいと思ってくれていることが、ただ嬉しかった。

「でもだめなんよ。親が地元にいろって言ったら絶対出る。親が就職しろって言ったら絶対大学行く。これは譲れん」

「反抗期ー!」

親と同じものを目指した部長と、親の言うことをとにかく聞かなかったわたし。

どちらが子供だったかというと、もちろんわたしです。

そして多分今も、わたしは反抗期の子供なんだと思います。

「帰ったとき連絡してよ。ご飯でも行こ」

「ごっちゃんです」

その時はじめて連絡先を交換したのですが、卒業したきり部長とは連絡を取っていません。

今はよき母親として、幸せな家庭を築いているんだと思います。

 

わたしは自分が所属するグループが変わるたびに、人間関係をすべてリセットしてきました。

0からはじめて自分の立ち位置を確かにしていく過程が面白いからです。

これはもう病気みたいなものだと思っていて、それと同時に一人でも大丈夫というある種のプライドのようなものでもあります。

ただ、時折モーレツに会いたくなる人がいて、今回はそれが部長でした。

元気にしてるといいな。

 

では!