ことあれかしだった

ちいさい怪談や奇譚を細々と書いています

キャレット

こんばんは。

あまりにも星がくっきりしすぎて目が痛くなる夜です。

こんな夜は何をしようかな?

そうだ、こんな夜は気持ちを静かに、詩的散文を書こう。。。。。。。

 

 二時間後、そこには古いラップトップ型コンピューターの前に項垂れた一人の人間の姿があった。
 辛うじてその輪郭を浮かび上がらせるに過ぎない、色褪せた頼りない照明の明かりの下で深い陰影に隠された表情を読み取る事は出来ない。
 こんな事を一体幾度繰り返せばいい?
 自問するが答えはない。所々裂けて綿のはみ出した革張りのカウチソファに凭れ、室の中で唯一眩いばかりの光を放つラップトップ型コンピューターのディスプレイを恨めしげに睨む。手許でかろと云った音がした。安物のスコッチが氷を溶かす音だった。
 わたしは何時まで、こんな事をやっているのだ?
 ディスプレイには何も表示されていない。正確には文章作成用ソフトウェアが立ち上がっており、文章作成画面が表示されているのだが、新雪の野を思わせる純白が一面に広がる中、左上の辺りでキャレットが正確なリズムで明滅を繰り返しているばかりだった。
 わたしは何時から、こんな事をやっているのだ?
 遡る事二時間前、その日の勤めを終えて家路に就く途すがら、一陣の冷たい風に身震いをした拍子にふと夜空を眺めたのだ。
 見上げた先には、もう過ぎ去ったと思われていた真冬の星々が神経質なルールに従って配置され、壊れて動かなくなってしまったオルゴール様な静けさで厳かに発光していた。
 ”虚しい速さで落ちつつあると思われるほど……”
 あの文章の宝とも云える名文の意味を真に理解したつもりになって、一刻も早く詩的散文を書かねばならぬと焦燥に駆られたのではなかったか。
 ああ、あの星々のきらめきが閉じて行く。今ではもう、単なる記憶に過ぎない。閉じて行く。徐々に、徐々に。……。

 

あのタイピングする時に出てくる縦線のぴこぴこって、キャレットっていう名前なんですね。

 

では!