ことあれかしだった

ちいさい怪談や奇譚を細々と書いています

変な話6

こんな話を聞きました。

 

小田さんはたまに、娘さんからこんなことを言われたそうです。

「ママは?」

3歳になったばかりで、カタコトながら会話らしい会話が交わせるようになっています。

「ママはここよ」

おとぼけかと思って、小田さんは笑ってこたえます。

すると、

「ママは?」

娘さんはきょとんとした顔で繰り返すのでした。

 

ある日、洗濯物を干していると娘さんがやってきました。

「ママは?」

いつものやつだと思い、小田さんは微笑ましい気持ちになりました。

「ここよー。ここ、ここ」

「ちがうよ」

いつもだときょとんとした顔で戻っていくのですが、この日は違いました。

「何が違うの?」

「ここじゃないよ」

「?」

小さい子って自分の気持を言語化できないじゃないですか。

だから泣いたり、笑ったり、ボディランゲージしたりで思いを伝えようとしますよね。

「ここじゃなーいー!」

娘さんは泣き出しました。

理由を聞いても泣きじゃくるばかり。

意味ワカランと思いながらも、その日は娘さんをなだめて収まったそうです。

 

その日、小田さんはお風呂の掃除をしていました。

「ママは?」

バスタブをゴシゴシするのをやめて振り返ると、お風呂場の戸口に娘さんが立っていました。

お気に入りのミミッキュのぬいぐるみを抱きしめて、不安そうな顔をしています。

「ママは、……」

小田さんはそこで言葉を止めて、考えました。

なぜ娘はこんなことを聞いてくるのか。

普段は自分を母親だと認識しているはずなのに。

繰り返し。繰り返し。

小田さんは娘さんのところまで行くと、手を差し出しました。

「どうしたの?」

娘さんは小田さんの手を取ると、引っ張りました。

引っ張られるまま娘さんについて行くと、娘さんの部屋につきました。

部屋の真ん中にタブレットが置かれてあって、YouTubeの動画が流れています。

見ると知らない中年女性がこちらへ向かって何か語りかけていました。

「私はねえ」

含み笑い。

にこにこしているような表情ですが、顔の形がそうなっているだけで、表層筋で無理やり顔を歪めているような。

 

「私はねえ。死にたいわ。あなたも死にたいんでしょ? ママにも聞いてごらん」

 

何度も、何度も、同じ言葉を繰り返していました。

再生時間を見ると4時間近く。

 

「ママは?」

 

娘さんの言葉に血液が逆流するように感じました。

 

「このクソボケえええええええ!」

気がつくとタブレットを床に叩きつけていたそうです。

割れるディスプレイ。

ドン引きする娘さん。

少し間があって、娘さんがめそめそし始めたので、小田さんは娘さんをかかえ上げると強く抱きしめました。

「死にたくなんかないよ。ママは死にたくない。絶対死にたくない」

これまではゲームや動画サイトなんかは娘さんの好きにさせてきましたが、その日から考えを改めたそうです。

 

YouTubeはアカンわ」と小田さんが言うので、

「ニコ動にしたら?」

とわたしがこたえると、

淫夢厨になってまうやないか」

「うわなっつ」

落とし前をつけようと思って娘さんが見ていた動画を探したそうですが、結局見つからずじまいだそうです。

「タイトルも投稿者もわからんけど、平べったい顔したおばはん。ボサボサの黒髪で、白っぽい汚いセーター着てたと思う。テーブルの上で手え組んでて、なんか変な形の手だった。お前そういうの得意やん。見つけたら教えて。ボコボコにしてやる」

 

昔の悪友も今では立派な母親。

いや、立派じゃないな。。。

 

では!